飛騨牛という名前が生まれたのは昭和60年代のこと。淡いピンクの霜降りと、ジューシーな味わいが評価されている。今もなお、飛騨旅行の醍醐味として、観光に訪れる人々にその美味しさを広めている。


キッチン飛騨では、主にA5、A4等級の牛肉を使ったステーキをお客様に提供している。飛騨牛の美味しさを引き出すことに真摯に向き合い続け、おおよそ50年もの間生産者とお客様を繋げる架け橋を担い続けてきた。今回はキッチン飛騨の取締役兼レストラン責任者である河本明徳さんに話を伺った。



ここで一度、飛騨牛のルーツをたどると、飛騨地域では昭和20年代、食用だけでなく田畑を耕す農耕用も兼ねて牛の飼育が行われていた。昭和30年代には農作業の機械化によって食肉用専門への転換が始まり、昭和40年代には肉質の良さや体格の良さを求める改良が行われた。和牛のオリンピックとも言われる全国和牛共進会が開催され始めたのもこの時期である。

そして、昭和55年、飛騨牛ブランドの立役者となる「安福号」と名付けられた牛が種牛として岐阜県に導入され、高山市清見町の県畜産研究所での飼育が始まった。そして昭和60年代に国は牛肉の輸入自由化を開始。国産牛の差別化をはかるためにさまざまな銘柄がうまれた。「飛騨牛」という名前がうまれたのもこの頃である。安福号から生まれた子孫たちが飛騨牛として評価され、その美味しさを国内に徐々に広めていった。その名がより一層全国に広まったのは平成14年に行われた第8回全国和牛共進会にて飛騨牛が日本一の称号を得たこと。そこから現在まで飛騨牛はブランド牛として評価され続けている。


キッチン飛騨創業者の河本敏明氏は、まだ飛騨牛という銘柄がなかった昭和30年代に大分から旅行で訪れた飛騨で牛肉を食べたことをきっかけに、その美味しさを広めたいと飛騨へと移住をした。そしてのちの飛騨牛となる牛肉を使ったステーキ専門店「キッチン飛騨」を開業した。


飛騨牛はきめ細やかで、やわらかく、網目のような霜降りが特徴だ。味わいは先に述べた通り、香り高くジューシーである。キッチン飛騨の店内ではリブやサーロインを主に、シェフが最高の焼き具合を見極めたステーキを食べることができる。さらに、キッチン飛騨では様々な飛騨牛を使った、バライティに富んだメニューをお客様に提供し、観光客はもちろんのこと、長く地元の人に愛されつづけている。また、飛騨牛を使ったさまざまなオリジナル商品を開発し、お土産品としても喜ばれている。


「飛騨牛の性質を研究し続けた創業者の調理法を守り続けています。飛騨牛は飛騨の自然に恵まれた環境の中で大切に育てられ、品質も高く、最高の素材であることに違いはありません。私たちはその素材を最大限に生かす調理法を使って、お客様に最高の状態で、飛騨牛を召し上がっていただく最後の担い手として責任を持って調理しています。」と、河本さん。


そんなキッチン飛騨が長く飛騨牛と向き合ってきた歴史の中で、スタッフの賄いから商品化に至った商品がある。「ロイヤルカレー」と名付けられた、カレーである。


まず、ロイヤルカレーの前身であるキッチン飛騨のカレーが生まれるまでにも長い歴史があった。(キッチン飛騨にはロイヤルカレーの他に赤い缶のスタンダードなビーフカレーという商品がある)はじめはスタッフたちの賄いとして作られていたが、それが常連さんの裏メニューとして提供されはじめ、評判をよびキッチン飛騨のビーフカレーという商品が生まれた。そのカレーが「ロイヤルカレー」に進化するのにもきっかけがあった。キッチン飛騨が創立50年の節目を迎えた際、節目として何か新商品を作りたい。との思いから、ワンランクアップした、高級カレーを作ることとなったのだ。足掛け2年、その間レシピを試行錯誤し、極上の贅沢カレーができあがったのだ。


さらに「ロイヤル」と名付けられたのにも理由がある。2004年に岐阜県飛騨市にある東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設の「スーパーカミオカンデ」を当時の天皇、皇后両陛下が視察された際、両陛下の昼食としてこのキッチン飛騨のカレーを召し上がったことからこの名が名付けられたのである。50年の歴史が詰まった渾身の逸品を作り上げ、いつものカレーよりも特別な「ロイヤルカレー」が誕生した。

そんなロイヤルカレーの美味しさの秘訣を聞くと

「キッチン飛騨が仕入れた飛騨牛のスネ肉とバラ肉を贅沢に100gも使用しています。ボリューム感のある缶詰だからこそ表現できる、しっかり肉厚なお肉がゴロっと入っていて食べ応えがあるんです。余分な油っぽさを落とすために一度ボイルをしてから、煮込みました。飛騨牛の旨味や甘味を感じてください。」

と、当時、このロイヤルカレーの商品開発の主軸となっていた河本さんはさらにこだわりをつづけた。

「カレーのベースとなるブイヨンは香味野菜を8時間煮込んで作られます。ブイヨンを作るのに8時間かけるというのはよくありそうな手法ですが、キッチン飛騨がこだわるのは、その香味野菜たちを捨てないことです。煮込んだ野菜たちを裏ごしして余すことなく使用し、1缶に詰め込んでいます。なめらかな口当たりと、野菜の旨味をしっかりと感じていただけます。実は最後に飛騨の酒蔵から生まれた酒粕をプラスし、さらに裏ごしをするんです。」


酒粕には旨味成分がたっぷり入っているので、味の深みが増し、まろやかに仕上がる。裏ごしの工程を計2回踏むことで、口あたりはサラッとしているが、奥行きのある味わいが感じられた。



「デイリーに食べるカレーではなくて、特別な日に、食べてほしいカレーですね。キッチン飛騨の集大成を感じていただきたいです。また、ぜひプレゼントとして、大切な人に贈っていただきたいですね。」

レストランには創業時からのお客様が今も来店される。創業時を知るお客様は今は70,80代となり、お子さん、さらにはお孫さんやひ孫を連れて、特別な日にキッチン飛騨へと足を運ぶ。世代を超えて愛されつづけるキッチン飛騨の魅力を河本さんはこう語る。

「お客様にとっての大切な時間をよりよく過ごしてもらうため、創業当時から変わらない調理法で料理を提供することはもちろん、私たちはサービスを大切にしています。アットホームで、笑顔の接客を心がけています。飛騨牛ステーキ専門店というと少し敷居が高く感じるかと思いますが、1度ご来店いただければまた来たいと思っていただけると思います。また、レストランだけでなく、カレーをはじめキッチン飛騨の商品を1度でも食べ、その美味しさを体験してもらえれば、私たちのこだわりが伝わると思います。」

最後に、河本さんに今後の展望を伺うと

「創業から築きあげてきたものを貫きつづけることです。」と力強く答えた。

飛騨牛とお客様をつなぐ最後の担い手として、その美味しさをこれからも伝え続けるキッチン飛騨。飛騨へ訪れた際はぜひ1度訪れてみてはいかがだろうか。



2023年03月07日