「自然栽培を目指すこと、そして昔の人たちがやっていた方法で食を作ること。それが私の理想であり『本来の食』を作るために今も続けている挑戦です。」


そう話すのは、よしま農園代表・園主の与島 靖智さん。飛騨に食の価値観を根付かせてきた一人である。「自然栽培」とは、無農薬・無堆肥・無肥料で育てられた野菜のこと。さらに、土壌にも残留肥料や残留農薬がない。野菜と土がもつ本来の力だけで育てられている。

 


与島さんがいう「本来の食」とは?お話を伺った。

▲畑で作業するよしまさん 

飛騨高山の中心部から車で10分ほど走ったところによしま農園がある。農園はもちろん、採れた野菜を加工する工場、そして与島さんが選りすぐった商品が並ぶ小さなショップも兼ね備えている。ここには食の安全に関心があり、本当の意味での『美味しいもの』であったり『本来の食』を求める価値観をもつ人々が多く集まる。

 


「私が思う『本来の食』は、人々が日々の生活で心身ともに本当に疲れているとき『ああ、美味しいなぁ』と心に響く食です。人間が美味しいと感じる味を研究して作られたコンビニのサラダではなく、丁寧に育てられた野菜を食べたとき、美味しいという味覚以上にいろんな刺激が体をめぐります。その感覚をお客様に味わっていただきたい。その一心で今日まで食づくりと研究に邁進してきました。色々と苦労しましたが、最近では理想と現実に苦しむ状況をも楽しめるようになってきました。」


と、真剣な表情で語る与嶋さん。自然栽培に挑戦する専業農家の道は決して平坦なものではなかった。2001年ごろから自然栽培を行っているが、初めは上手くいかず、周りの人の理解を得るにも時間がかかる毎日だったという。

▲よしま農園は美しい自然環境に囲まれている

 

元々、サラリーマンをしながら兼業農家をしていた父のもとで育った与嶋さんは、幼少の頃から体が弱かった事もあり、健康や食についての関心が高かった。大学では農業を学び、研究者の道に進むことも考えたが、「本来の食」を作りたいという強い思いが専業農家を目指す原動力となった。


自然栽培とはシンプルにいうと「自然の成り行きの中で生まれた農法」である。しかし、放任ということではなく、むしろ手がかかる。自然の営みの中で生まれる力を最大限に引き出す工夫や作業が必要なのだ。


▲ズッキーニの受粉している様子


「野菜たちと語り合いながら、作業しています。農薬・肥料などに頼らない農法で育った野菜たちは本当にパワフルで『本来の味』がするんですよ。例えば、いつもお刺身の飾りとして食卓に並ぶ青紫蘇。青紫蘇は食べられずに捨てられていますよね。本当に勿体無いことです。そして、かわいそうだと思いませんか?野菜として生まれたのに捨てられてしまう。私は青紫蘇は『和製ハーブ』だと思っているんです。きちんと手をかけて育てられた本来の青紫蘇ってとっても良い香りがするんですよ。絶対に捨てることなんてできませんよ。」


よしま農園では栽培した野菜たちを自社の工場で加工し、製品化する。青紫蘇も採れたてをペーストにしている。


「私たち農家は本来の野菜の香りを知っています。青紫蘇の香りは採れたてがピークで、だんだんと香りが落ちて行きますが、その香りをお客さまにも知ってほしいと思い、収穫して、すぐペーストにするんです。ペーストにはオリーブオイルと塩とニンニクが入っています。余計なものは入れません。青紫蘇の濃度が高いのでほんの少しだけでも香りがします。これをお料理にぜひ使ってみてください。いつものお料理が一風変わってアクセントになりますよ。『和製ハーブ』という意味がわかっていただけると思います。」

▲採れたての青紫蘇 

与島さんがいう『本来の食』とは、とてもシンプルだ。加工品にもそのシンプルさが表れている。与島さんは使用している塩にもこだわっている。それは沖縄の会社が作っている「シママース」という天日塩である。その元の塩はオーストラリア産の湖塩から生まれていて、沖縄できれいにし直しているそうだ。


あえて、海から生まれたものではなく湖塩を選びました。近年の世界の海は大変汚染がひどく、 特にマイクロプラスチックや放射性物質汚染があるんです。この湖塩は太古の昔、地球がキレイだったころの 塩水の湖が干上がって地層化された塩です。データ的にもマイクロプラスチックの含有量が少なく、信頼をおいています。舐めてみても、とてもまろやかで、塩カドがなく、ほんのり甘いような感じもあります。それはミネラルがたっぷりと入っているからです。」


「最近流行りのようになってしまった『減塩』ではなく、本来はミネラルの入ったこういった塩を摂ることが大事なんです。精製塩とでは塩分濃度が全然違いますから。体にはミネラルも必要なので、まず『減塩』ではなく、上質な塩に変えてみてほしいです。天然のものは本来、身体にも優しい。食べることが身体を作りますから。お野菜も、調味料も、できるだけ自然の成り行きに寄り添ったものを選びたいですよね。そしてそれが結果的にとっても美味しいんです。自然の美味しさは、心に響く美味しさです。」


▲飛騨高山の宮川朝市にて。観光客や地元の人に美味しさを広めている

 

「魂に響く」「心に響く」という言葉を幾度となく口にし、エネルギーあふれるお話を聞かせてくれた与嶋さんは、最後に、「飛騨だからこそ作れる食を作りたい。この飛騨の自然の力を最大限に引き出したいです。」

と語っていた。


与嶋さんが日頃から魂を震わせ、心を込めて作っている野菜たち。

その源流には、地元・飛騨高山への郷土愛があり、その郷土愛が食を通して伝わるからこそ、人々の魂に、心に響く美味しさとなるのかもしれない。



2022年12月01日