地元で50年愛される「青のほうじ茶」とは|まつの茶舗
「ほうじ茶」と聞いてどんなイメージが浮かぶだろうか。
日本茶には煎茶や玉露、抹茶などと様々な種類があるが、ほうじ茶は炒った香ばしさや赤茶色が特徴で、その年の遅くにとれる番茶を使うため、玉露や抹茶などと比べると比較的安価なイメージだ。生活に馴染み、デイリーに飲める日本茶といったところだろうか。
今回伺ったのはそんなほうじ茶のイメージとは異なる、「青のほうじ茶」を50年作り続けている まつの茶舗 だ。
ここは高山の中心部にある『本町商店街』。飛騨高山観光では外せない「古いまち並み」や「宮川朝市」からも歩いていける距離ということもあり、観光客や地元の人で賑わっていた。その一角に趣のある暖簾を掲げたまつの茶舗がある。店内に一歩入るとお茶の良い香りに包まれた。店内には迫力のある筆字で「茶」と書かれた箱が並んでいた。
「お茶屋に生まれたのに、お茶のことや、家の仕事のことを何も知らなかったんですよね。関東の大学に進学し、そのまま働きはじめ、忙しくしていました。そんな中でたまに高山に帰省すると、時間の流れも穏やかで、自然に溢れている街を見ると、とても豊かに感じました。さらに移住者のコミュニティがあったり、新しいおしゃれなお店が増えていたり、なんだか面白い雰囲気があったんです。それを見て『地元もいいな』と思うようになったんです。そして、2014年・26歳の時に実家のお店を継ぐと決めて、実家に戻ったんです。」
そう話すのは まつの茶舗・四代目の松野洋平さん。洋平さんは地元の高校を卒業し、大学進学と共に上京し、そのまま神奈川の海外旅行専門の旅行会社に就職した。
「実家に戻って、初めて家の仕事を知りました。当たり前に飲んでいた「青のほうじ茶」は50年前に祖父が作った味で、その焙煎技術は祖父から父へ、父から僕に引き継がれました。最初は微妙な香りや味の差がわからなかったですが、何度も何度もやるうちにわかるようになってきましたね。」
店内に20種類以上あるお茶は、静岡や九州のお茶を買い付けて、ブレンドし販売している。お茶は焙煎された状態で買い付けるのが一般的だが、この「青のほうじ茶」だけは、生茶(焙煎されていない状態)で買い付けをし、洋平さんがお店の中で焙煎をする。
「ほうじ茶のイメージとは異なると思いますよ。まずは飲んでみてください。」
と言いながら、手際よくお茶を淹れてくれた。
まず、出されたお茶の色に驚いた。ほうじ茶なのに、青く透き通っている。口に入れるとまず、香ばしい香りと、お茶のフレッシュな香りを同時に感じた。味わいは確かに煎茶のように繊細だった。渋みやえぐみが少なく、スーッと舌の上を転がっていく。
思っていたほうじ茶とは全く違う。
「一般的なほうじ茶は番茶(その年の遅くに刈り取ったお茶)を200度くらいの高温で焙煎します。香ばしさ、少し苦味を感じるような味わいが特徴ですよね。それに比べ「青のほうじ茶」はお茶の中でも1番品質が良いとされ、煎茶などに使われる一番茶を120度から130度の低温でじっくり火入れをします。繊細で奥行きのある味わいが特徴です。このほうじ茶の茶葉を見ていただくと、とても水々しさが残っているのがわかります。一番茶の良さを残しているんです。」
雪深い飛騨高山では、お茶の木が育たないため、まつの茶舗では岐阜県南部の契約農家から茶葉を仕入れる。お茶の葉の形で味わいが変わってくるため、形を指定して仕入れている。農家で摘み取った茶葉を新鮮なうちにすぐ蒸して、乾燥させる。こうすることでお茶の成分が安定する。その状態で茶葉を仕入れ洋平さんが焙煎をし「青のほうじ茶」が生まれる。コーヒーと違い、”自家焙煎”のようなやり方をするお茶屋さんは珍しい。
「焙煎ってその日の気温や湿度によって微妙に変わってくるんですよね。茶葉の状態によってもやり方は変わってきます。最終的には香りや質感をみながら、経験と勘で調整して仕上げるんですよ。」
洋平さんが焙煎を始めると、商店街に立ちこめるお茶の香りに、道ゆく観光客が「いい香り!」とお店の周りに続々とあつまってきていた。口調は穏やかな洋平さんだが、真剣な眼差しで茶葉の香りを確認していた。
「焙煎機も50年使っています。最近のかっこいい焙煎機も良いなあ、と思うんですが、なぜかこの焙煎機にしか出せない味があって。長年焙煎してきたことによって風味が染み付いているのかもしれませんね(笑)」
最後に、「青のほうじ茶」のおすすめの飲み方を聞いてみた。
「ティーパックなら、特別な器具も必要ないですし、お湯を注ぐだけで美味しく淹れられますよ。急須で入れていただくのが一番美味しいですが、もっと気軽に楽しんでもらいたくて2016年にティーパック型の「青のほうじ茶」を作りました。茶葉を粉状にして、簡単に味がしっかりと出るようにしたんです。マグカップにティーパックを入れて沸騰してから30秒ほどおいた80〜90度のお湯を注いでください。実はお茶漬けにも相性がいいですし、夏は水出しもオススメです。」
「せっかく僕のような若い世代がお茶に関わっているので、同世代にもっとお茶を楽しんで欲しいですよね。僕らの世代ではコーヒーは豆で買ってきて飲むけれど、茶葉を買ってきて、急須でお茶を淹れる人って圧倒的に少ないじゃないですか。お茶ってペットボトルでも買えるし、なんなら無料で飲めるところだってたくさんある。でも、お茶屋にしか出せない様々な味があることを知って欲しいですね。そんな思いもあり、ティーパックを作ったんです。日本茶に興味を持つきっかけになったらいいなと思います。コーヒーってなんかかっこいいじゃないですか(笑)あそこまでいかなくてもいいけど、まずは「お茶もいいね」と思ってもらえたら嬉しいです。」
と松野さん。私たちにとって日本茶はあまりに日常すぎて、種類や生産地、生産者を知る機会が少ない。「青のほうじ茶」は驚きを与えてくれる。きっと日本茶のおもしろさを知るきっかけになるはずだ。