高山市清見町は、市街地から20分程度車で走ったところにある。今回は清見町の森の中、国産の広葉樹を用いたものづくりにこだわった工房「オークヴィレッジ」に伺った。

日本国内は国土の67%が森林で覆われており、更にその中でも、スギ、ヒノキが40%にあたる。国内の木材自給率は40%にとどまっており、比較的安価で安定的に輸入ができる、海外産材に頼っているのが現状だ。

そんな中で創業当時からオークヴィレッジでは国産の広葉樹材を使うことにこだわり続けている。その理由とは?

 

 

 

オークヴィレッジの敷地内に入ると緩やかな坂道をのぼった。その道を挟むように左側には木々が生い茂る森、右側には小さな川が流れていた。しばらくのぼると存在感のある大きな看板に出会うことができた。

▲重厚感のある看板

車を降りて歩いてみると、材料が置いてある納屋、ショールーム、倉庫や車庫、住宅などなど、建物がポツポツと点在しており、工房というよりは小さな村のような雰囲気が感じられた。

 

「ぜひ裏の山も見ていってください。とても気持ちが良いですよ。」

 

 と、案内してくださったのは、オークヴィレッジに入社して20年・服部修さん。

 オークヴィレッジは1974年に生まれた。この場所はその当時、一面ススキ野原だったそうだ。創業者たちが自らススキを刈り、谷から水をひき、土地を平らにした。それから工房を作ったり、それぞれが家族で住む住宅を建て、田畑を耕し、漆や果樹の木を植えていった。その後事業は拡大し、社有林を広げ、今では約20,000坪の敷地がある。

 

ショールームには無垢材の雑貨や家具が並んでいた。あたたかみのある国産広葉樹の優しい雰囲気に包まれている。ショールームの裏口を出ると、そこには山道が続いていた。川のせせらぎが響き、両脇には木々たちが生い茂り、その隙間から太陽の光が漏れている。まるで緑のトンネルのようだった。耳をすますと遠くには鳥のさえずりや、虫の音が聞こえる。肌に触れる空気は少しひんやりとした。

 ▲オークヴィレッジの森

服部さんは、森を歩きながら、すぐそばにあった木の説明をしてくれた。

「この木はミズメザクラといって、湿布とおんなじ成分が入っているんですよ。匂いをかいでみてください」と言っておもむろに枝をポキっとおって渡してくれた。すると、本当に湿布と同じスーっとする匂いがした。

 

「すごいでしょ?」服部さんはそう言って、話を続けた。

 

「実際に昔のきこりたちは、仕事を終えた後この木の樹液を疲れた身体に塗ったりしていたそうですよ。昔の人たちはちゃんとわかってたんですよね。」

 

「私は元々、香港で税関関係の仕事をしていたんです。外(香港)からオークヴィレッジの活動を知り、興味を持っていたんです。縁があって入社に至りましたが、それまで木や森に全く関心がない人生を歩んでいたので、ここに来て、山入ると自然界のさまざまなことを知ることができて、驚きの連続でした。」

 

オークヴィレッジは創業者である5人の若者が木でものづくりをしながら自給自足のコミュニティを作るためにこの場所を拠点としたことが始まりだ。国産材の無垢材にこだわる理由はここにある。自分たちで循環型の生活を目指したのである。

 

「天然木や国産材を使い、長く使ってもらえるものを作る。そして、木を扱うものとして、森を敬うこと。そして森を育てること。これらは5人の創業者が当時掲げた想いです。わたしはその想いを受け継ぎ、木製品を通じてその想いを発信しています。私たちの製品を手にとった時、違う見地で素材や、さらには暮らしぶりを見るきっかけになっていただけたら嬉しいですね。」

 ▲服部修さん

オークヴィレッジの創業当初からの理念が3つある。1つ目は『お椀から建物まで』。これは家具づくりから始まったオークヴィレッジだったが、建物まで作る工房になるという決意表明である。実際に今や建築工房としても日本中に名を馳せている。2つ目は『100年かかって育った木は、100年使えるものに』。森や木を敬い、育ってきた時間と同じくらい使い続けることができるものにしていくということ。3つ目は『子ども一人、ドングリ一粒』である。”子ども”とは自分達の製品のことで、製品を作ったら、どんぐりを一つ植えることを習慣化していた。大量生産・大量消費という世の中の仕組みに警鐘を鳴らし、持続可能で循環するものづくりの実践だった。

 

「私たちはこの森の整備、管理をしながらものづくりを行っています。定期的に間伐をしたり、年に一度は山への敬意を表して、植樹祭をし、大切な資源を山に返しています。そんな活動を続けていくなかで、数年前に長年、念願だった自分達が植えた木から製品を作ることができたんです。循環型のものづくりを目指した創業者たちの想いがやっと形になったんです。木を育てて、材料として使えるサイズになるまでは40年ほどかかるんです。そう思うと、すごいことですよね。」

 

その年月を考えると、木や森を育て、製品を作ることは一世代だけでなく、二世代、三世代とかけて取り組まなければいけない。創業者たちの想いを引き継ぎ次世代へとつなぐ必要がある。

▲植樹の様子

 

服部さんは次世代に木や森のことを知ってもらうために、木育に力を入れているそうだ。


「コロナウィルスが流行る前までは”木育キャラバン”という、子どもたちに木に触れてもらうイベントを全国各地を回って行っていました。まず、木に触れることから始めて、それから木を知る→使う→育てるということに繋がっていけばいいなと思っています。」


実際におもちゃを手にとり、触らせていただいた。とてもきめ細やかな触り心地で、無垢材ならではの優しさや温もりを感じた。

 

「広葉樹には温かさがあるんですよ。そしてささくれがおきにくい。特にブナの木は実際に人肌に一番近い温度を持っていて、おもちゃにするにはぴったりの材料なんですよ。」

 

そんな材料を職人さんが加工し、丁寧に手作業で磨く。するとさらに人肌のような質感に近づくそうだ。赤ちゃんが使うおもちゃを通じて、その親や、おじいちゃんおばあちゃんまでもが木の温かさに触れ、感じることができる。プラスチック製のおもちゃにはない、ぬくもりがある。


「おもちゃにはさまざまな広葉樹を使っています。色や、木目もそれぞれ違うのも面白いですよね。もちろん無塗装で、金具なども一切使っていません。」


▲職人さんが木を磨く様子

「正直初めは、山に囲まれた『田舎』での仕事は、飽きると思っていたんですよ。木や自然のことを勉強しながら20年経ちますが、全く飽きないんですよね。飽きないどころか、自然から学ぶことが多すぎて一生かかっても学びきれないと思っているんです。例えば、木の枝ぶりを見ると、その場所の歴史がわかるんです。何らかの影響があってその姿になっている。そういった”自然の理”を知れば知るほど、追いつかないんですよね。」

と、服部さん。さらに

「木や森のこと知るのは、仕事ではなく、人生のことを教えてもらっていると思っています。私の生き方に繋がっているんですよ。」

と笑って言った。最後にこれからの展望を聞いてみた。

 

「木に関わる人たちの暮らしを豊かにしたいんです。それは経済的なことだけでなく、環境であったり、さまざまですよね。もっともっと活用したい地域材とかがあるんですよ。まだまだ時間も手も足りなくて、やれてないですけど。あとは、この飛騨地域の子どもたちが、木工にもっと興味を持ってくれたらいいなと思っています。将来、働く場所として選んでもらえるような良い環境を整えて行きたいです。創業者たちの想いを守ること。そして、発展させていきたいです。」

 

創業当時から自然と共生することを大切にしてきたオークヴィレッジ。そのぶれない価値観はこれまで様々な共感を生んできた。彼らの製品は自分達の暮らしぶりを見つめ直す小さなきっかけになるはずだ。まずは製品を手にとり、木の木目や色合い、温かさを感じてみる。また、機会があれば、この森を訪れてみてはいかがだろうか。



2022年12月05日