「私たちのコンセプトである『木の恵みを使いきる』活動の一環として、エッセンシャルオイルの抽出、研究にも挑戦することを決めました。エッセンシャルオイルを通して、日本の木を使うことに触れていただいて、日本の山の問題を知り、興味を持っていただけると嬉しい。」

大正9年創業の飛騨産業(株)(当時:中央木工株式会社)は飛騨で最も古い家具メーカーであり、飛騨のものづくり産業を支えるため、森や木と向き合いながら今日まで歩んできた。 


▲岡田明子社長(左)・三浦萌香さん(右)


今もなお高山の街並みに点在する町家建築や、祭屋台など、飛騨各地で見ることが出来る「飛騨の匠」の技術を今に受け継いでいる。山々に囲まれている飛騨地方では良質な木材が豊富に採れたことから、木を加工する技術が発展していったと言われている。「飛騨の匠」と呼ばれる、木のものづくりの名人たちが歴史上に初めて登場するのは今から1300年前、8世紀初頭のことだ。21世紀の現代、2013年に飛騨産業は「木の恵みを使いきる」というコンセプトのもと新たなスギ材活用の研究開発がスタートした

「私たちは2001年から、国産材のスギを家具として活用するための研究をしてきました。日本の山にはたくさんのスギがありますが、そのほとんどが上手く活用されてないという問題があります。木材を扱う家具メーカーとして、日本の山林の現状に目を向けて、積極的にスギを活用しようという想いから、研究が始まりました。」

こう語るのは、飛騨産業の代表取締役社長の岡田明子さん。

2012 年には木材や枝葉から高温高圧で蒸留する機械設備が導入され、蒸留液やエッセンシャルオイルを活用する研究開発が始まった。翌年には岐阜大学を退官された棚橋先生を招聘し、棚橋先生が開発された高温高圧水蒸気蒸留法の指導を受けつつ、木材の新たな活用方法の研究が強化された。2013 年にはきつつき森の研究所を発足し、所長に棚橋先生を据え、竹や改質木材の研究が始まった。



▲オイルと蒸留水が分離する様子

「日本では戦後の政策で、荒廃した山々に建材用のスギやヒノキなどの針葉樹を植える活動が盛んになりました。しかし、その後木材の輸入が自由化となり、海外から安い材料が入ってくるようになりました。そのため、日本の木は使われなくなってしまったのです。」

日本の国土の67%が森林であるにも関わらず、現在の日本の木材自給率は34.8%である。森林に資源がたくさん放置されている現実がある。

「資源がすぐそこにあるのにも関わらず、上手く使いきれていないため、様々な問題が起きています。木材というのは、鉱物や化石燃料と違い、太陽の力で育ち、自然に還るという循環型の資源です。その資源を持続的に育むためにも山を適正に管理することが大切です。」

そして、実際にエッセンシャルオイルの抽出や研究を担当している三浦萌香さんに飛騨産業のオイルの特徴を聞いた。

「私たちのオイルは、針葉樹6種類から抽出していますが、例えばヒノキは木部と枝葉部というように部位によって分かれていたり、材料の採集から管理しているからこそ、細分化したオイルを作ることができます。」


▲作業をする研究室・三浦萌香さん

そのほとんどが飛騨の木から採れたものだという。部位によっても香りや成分が違い、生き物なので採った年によっても香りが違う。さらに、同じ場所で同じ木を採集しても、前後の天気によっても香りが違うこともある。

「自然にはいつも変化がありとても面白いですよ。」と、三浦さん。

例えば、花粉症に悩まされる方が多いスギ。冬を超えて、暖かくなり花粉をつけ始めた時はオイルの成分も違う。勢いがあり、活発になっているのでオイルもたくさん採れるのだという。

「花粉をつけるスギというのは「老齢木」と呼ばれる木で、伐採期をすぎて歳をとり、子孫を残そうとするのでたくさん花粉をつけます。花粉症に悩まされている方々のためにも、そういった木は早く切ってあげなければいけません。」


▲飛騨の山

飛騨産業では、柔らかいスギを圧縮して家具用材にする「木材圧縮」の技術を使って、家具を作っている。その技術を応用して、木材をプレスして樹液を絞り出す「高圧水蒸気蒸留法」について教えていただいた。

「一般的に流通しているエッセンシャルオイルは「水蒸気蒸留法」という方法で、100℃の蒸気で蒸留しますが、圧力をかけることにより130℃〜140℃で蒸留することが可能です。100℃では抽出しきれない成分を抽出することができるので、同じ木でも他社と比べて、香りも成分も違います。また、特殊な装置を使っているので、効率がよく、短時間でオイルを抽出することができます。」

▲スギの板

スギやヒノキなどの針葉樹を活用することで、土砂崩れを防いだり、森林の生態系の保全にも繋がる。近年ではCO2の吸収源機能も認められているのだという。

森を適切に管理することにより、山が持つ本来の力を取り戻し、そして木を切ることで林業にもお金が発生し、好循環を生むのだ。

岡田社長の想いが、林業の、そして日本の未来を守ることに繋がっていく。さらにオイルを採った残渣も、バイオマスボイラーの設備を使い、燃料源として焼却している。

「そのエネルギーは暖房や家具製作のエネルギーとして活用しています。さらに、普通、針葉樹は抗菌作用成分がたくさん入っているため腐葉土にならないのですが、オイルを採ってしまうと腐葉土になるんです。そのため、地元の農家の方が取りに来て畑の土づくりに活用してくれています。」

スギオイルやヒノキオイルにはどのような活用方法があるのだろうか。

「先ほども言った通り、そもそも針葉樹って抗菌作用がすごく強いんですよ。ですので、お掃除なんかに使うと良いですよ。バケツに数滴垂らして雑巾絞って拭き掃除とか。ディフューザーで焚いても部屋が浄化されるような気持ち良さがあります。ヒノキオイルは日本で昔からお風呂の材に使われていたようにお風呂にぴったりです。実はリラックスというよりはリフレッシュ作用が強いんです。お風呂に数滴垂らして使ってみてください。また、オイルより手軽に使えるスプレーなどは蒸留水でできています。希釈しなくてもそのまま使うことができるので生活に気軽に取り入れられるので、アロマ製品が初めての方にオススメです。」

▲高圧蒸留機をバックに

<最後に、岡田社長から、このエッセンシャルオイルを通じて伝えたいことを教えていただいた。「最初は「いい香りだな」と、木の香りの発見に繋がればいいと思っています。そこから、木が持つ成分を知り、癒されたり、リフレッシュしたり様々な使い方をしていただければと思います。そして、エッセンシャルオイルを通して、日本の木や山に興味を持っていただけると嬉しいです。私たちは様々な形で木に触れるワークショップや、工場見学なども行っておりますので、興味がある方にはどんどん参加していただければと思っています。」

戦前までの日本は山にはいり、木を切り、そこからいろんなものを作ったり、燃料にしたり、循環型の生活を自分たちで作りあげていた。私たち日本人は今一度、日本の山に目を向けるべきではないだろうか。日本の山林の問題を解決するには長期的な取り組みと、より多くの人の関心、そして、アクションが必要である。

子どもたちが暮らす未来の日本がより良い環境であってほしい。自然と共生する未来であってほしい。そんな願いを持って飛騨産業では、その一歩を今、踏み出している。先人たちの知恵や知識を過去のものにすることなく、今に活かし、未来へ繋げていく。

「飛騨の匠」の技術と想いを受け継いだ飛騨産業。それをまた未来へと繋いでいくのは私たちそれぞれの想いと選択なのかもしれない

2022年10月15日